イグ・ノーベル賞 雑学

「ベーグルの穴」はなぜ必要なのか? トポロジー的視点から見るパン研究

「ベーグル」と聞いてイメージするのは、中心に穴のあいたドーナツのような形状のパン。ふわふわしつつも少し歯応えがある食感で、サンドイッチにも重宝される定番アイテムですよね。
しかし、この“穴”は一体なぜ必要なのでしょうか?
実はこの穴には歴史的・実用的・さらにトポロジー的な意義が隠れているのです。今回は「ベーグルの穴」の深〜い理由を、ちょっと科学寄りの視点で紹介していきます。

そもそもベーグルって?

ベーグルは東欧ユダヤ系の文化から広まり、いまではアメリカをはじめ世界中で親しまれているパンのひとつ。
大きな特徴は生地を成形したあとに一度茹でてから焼くという製法で、これによって外皮がやや硬め・中はもっちりという独特の食感が生まれます。

歴史的背景

もともと保存性を高めるため、外側を固く仕上げる工夫として「茹で→焼き」のプロセスが確立した、と言われています。

ベーグルの形はユダヤ人社会でのパン文化の一端を示すもので、ニューヨークなどに移民が渡ってから一気に広まったという経緯があります。

ベーグルの“穴”がもたらす実用メリット

均一な加熱

ベーグルは焼く前にまず茹でる工程が入ります。

  • 中心まで熱が通りやすい
    中央に穴があることで、湯に入れたとき全体が同じくらいのスピードで加熱され、さらにオーブンで焼くときも熱が均一に伝わりやすい、と言われます。
  • 表面積が大きくなる
    ベーグルの“輪っか”形状のおかげで、従来の丸いパンよりも“外側の部分”が相対的に増えます。
    つまり、焼き上がりの香ばしい外皮をたっぷり楽しめる設計になっているわけです。

持ち運びのしやすさ

歴史的には、屋台や露店で長い棒にベーグルを通してまとめて売る(あるいは運ぶ)習慣があったとも言われます。
穴があることで、数多くのベーグルを「串刺し状態」で持ち運びしやすくなり、売り手にも買い手にも便利だった可能性が指摘されています。

トポロジー的視点:ベーグルは“トーラス”である

数学の一分野であるトポロジー(位相幾何学)では、「ドーナツ型の曲面」をトーラス(torus)と呼びます。
ベーグルもまさに“トーラス”の形状であり、いわゆる「穴のあるパン」です。

  1. トーラスの性質
    • トーラスは “ハンドルが1つ付いた” 二次元曲面とよく例えられます。
    • コーヒーカップの取っ手部分とドーナツの穴が同じトポロジー的位相構造を持つ、なんて話が有名ですよね。
  2. 穴のあるかたちの意義
    • 連結性や切り口の問題
      トーラスを切る方法によって、異なる断面形状が得られます。
      ベーグルを横からスライスするとき、きれいに円形の断面ができたり、複雑に分割されたり とトポロジー的にも興味深いのです。
    • トポロジー = 形を「つなげたり伸ばしたり」しても変わらない性質を扱う学問。
      ベーグルやドーナツの穴が、同じ “トーラス” というカテゴリに属する良い例です。

“穴”があると食感や味はどう変わる?

表面積が増えることで得られる食感

ベーグルは、外皮が比較的固めで内側はしっとり・もっちり。穴がある分、外皮の面積が増え、焼き色やカリカリ部分が多くなる一方で、中心部の生地が厚くなりすぎず、全体のバランスが保たれます。

つまり、穴がないと熱が通りにくい塊になってしまったり、外側が固くなりすぎたりと、食感が損なわれる可能性があるということ。

焼きムラの防止

ベーグルは“輪っか”に成形することで、中央の厚みが均一になりやすく、熱を加えたときにムラが起こりにくいという利点があります。
まさに、機能と形状が理想的にマッチしたパンなのです。

5. ベーグルと他の“穴あきパン”の違い

世界にはベーグル以外にも穴のあいたパンや菓子、麺類が存在します。
たとえばドーナツ。ドーナツも“穴がある”という点ではベーグルと同じトポロジー的構造(トーラス)を持ちますが、

  • 生地の仕込み
    ベーグルはイーストで発酵させるパン生地、ドーナツは牛乳・卵・砂糖などが入った甘い生地。
  • 揚げる or 茹でて焼く
    ドーナツは油で揚げるのが一般的、一方ベーグルは茹でてから焼きます。

作り方の差はあれど、穴を空けることで熱の伝わり方が均一になるという共通点があります。

6. まとめ:ベーグルの穴はトポロジー+実用性の結晶

ベーグルの穴は単なる形状上のアクセントではありません。
熱の通りを良くし、外皮を香ばしく仕上げるという実用性から、運搬や販売のしやすさといった歴史的背景まで、さまざまなメリットを担っています。

日常のパンの形にも、こんな深い「数学」と「歴史」が隠されていると思うと、次にベーグルを手に取ったとき、少し違った視点で楽しめるかもしれません。
「なぜこの形なのか?」
「ドーナツや他の穴あき料理との共通点は?」

そんな疑問をめぐらせながらベーグルを味わうと、いつもよりちょっと奥行きのある“パン体験”を満喫できるかもしれませんね。

-イグ・ノーベル賞, 雑学